擎天出版社の『ドラえもん』第1144巻に収録の作品「怪小鴨」(アヒル型ロボット登場)を和訳したので紹介します。

ちまたでうわさの「幻のドラえもん作品に卵型爆弾を産むアヒル型ロボットが登場する」というゴシップの真相が明らかに!?

1144_0s

qt1144_84-85ja

qt1144_86-87ja

qt1144_88-89ja

(「怪小鴨」『機器貓小叮噹 第1141集』擎天出版社、中華民國76(1987)年出版)
原文「怪小鴨」(中文、1.88 MB、zip file)を公開します。リンクをクリックしてダウンロードしてください。

2017年初回のブログ更新となります。あけましておめでとうございます。

さて今回ご紹介いたしますのは、初披露、擎天版ドラえもんでございます。
擎天はギョウテンとお読みください。天を手で支える、天を仰ぐといった意味でいいと思います。びっくり仰天のギョウテンと覚えましょう。

奥付に発行年は記されていますが、月日については記されておりません。また作者名も代表者名ありません。

「第1141巻」という途方もない巻数が気になる方もいらっしゃるでしょう。本当にこんなに膨大な巻が刊行されているのかは怪しいところ。出版社名を育民出版社へと改名し第9000巻台というものまで存在するのですが、その間の2000番台から8000巻台にかけてはおそらく存在しません。まだ調査中なのですが、どうやら擎天版ドラのオリジナル作品が収録されている巻は第1140巻前後10巻程度であり、実質的に収集価値のある巻は限られているようなのです。巻数に驚く必要はありません。

擎天版ドラのオリジナル作品の特徴は、原作版ドラや海風版ドラのリメイク。しかも微妙に三谷幸広版ドラをほうふつとさせる筆致なのがおもしろい! ドラズや学習まんがでおなじみ、藤本先生の元アシスタント、藤子プロの三谷幸広先生です。似てるなどと言ったら三谷先生に対して失礼になってしまうかもしれませんが。まあそれはさておき「原作版ドラや海風版ドラのリメイク」という言葉に注目していただきたい。「なんだ、ただのリメイクか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ところがこれこそ驚愕すべきことなのです!!

今回紹介した作品は一見すると青文版ドラでもよくあるような至って普通のオリジナル短編でありましょうが、実はリメイク元が海風版ドラという最大級に幻のシリーズなのです!!! それがこちら!

1978年という早い時期に台湾の海風出版社が刊行開始したドラの漫画単行本シリーズ「海風版ドラ」。原作に似つかないアクの強い絵柄、原作とかけ離れた謎設定を惜しみなく出してくる潔さ、原作に勝るとも劣らない独特のハイテンションさ、それにもかかわらず登場するひみつ道具はいかにも原作に登場しそうなものになっているという、読む人に強烈な印象を与える作品となっています。その強烈さゆえか、現在では古書市場にまったくといっていいほど流通していません。その海風版ドラを、たとえリメイクとはいえ比較的手軽に読めるようにしてくれたありがたい存在が擎天版ドラなのです!(1978年以前にも刊行されていた可能性がありますが未確認)

しかし上に示した海風版と擎天版の「怪小鴨」を比較すると、類似点がいくつか見つかる反面、どうしても相違点が気になってしまうかと思います。先述のように海風版ドラは導入部の強引なことが多々あり、奇妙な物を拾う、奇妙な物(者)が突然やってくることは珍しくありません。「怪小鴨」の例に限らず、リメイクにあたってはドラらしい自然な展開へと描きなおしているのです。ちなみに青文版ドラでも同様に海風版のリメイクを行う例がありますが、「怪小鴨」のリメイクは青文版には存在しません。青文版ドラだけ全巻そろえても、海風版のリメイクを読みつくすことはできないのです。

前置きが長くなりましたが、つまり「卵型爆弾を産むアヒル型ロボットの登場するドラ作品」は擎天版ドラ第1144巻に収録されているという事実が要点です。重度のドラファンであればご存知かと思いますが、「原作初期にたった5回だけ登場したガチャ子というロボットが、1974年に日本テレビ系で放送されたテレビアニメ『ドラえもん』第1作に登場し、しばしばその作中で卵型爆弾を産んでドラたちを黒焦げにした」という証言がいくつか存在します。もしかすると擎天版ドラの「怪小鴨」はそれを意識して盛り込んだのなのかもしれません。はたまだ、証言者はどこかで擎天版ドラを読んだ記憶があり、いつの間にか記憶のすり替えが起こってしまったのか。これらの解釈は正しいのか、あるいは誤りであるのか、いずれにせよ本作がドラ史における貴重な記録であることに間違いないでしょう。

擎天版ドラについての特筆すべき点はまだまだありますが、あまりに説明が長くなってしまうと読者に飽きられるため、今回は本作の紹介に必要なところだけ解説して終わることとします。先述の育民版(旧擎天版)ドラについても語るべきことは残っています。今後の擎天版ドラ解説にどうぞご期待ください。

……84ページにあたる空白部分にはじつは原作の「ラジコンアンテナ」のエピソードの最終ページが掲載されているのですが、製本に使われていたホチキスが腐っていて書籍の分解にひどく苦労した上、ページの焼けがあまりにもひどく画質補正にくたびれたのでスキャンをあきらめました。お許しください!


次回はいいかげんに青文版ドラ第176巻「サイボーグ変身セット」の和訳を紹介しますかね? って、これを言うの何度目でしょうか。いいアイディアが思いつき次第、紹介する作品を予告なく変更しますのでご了承ください。ご意見ご要望はいつでもお待ちしています。次回もお楽しみに!